突撃!
UO日記Formosa
其之四

第五話
「我想殺日本人」
2000年2月13日

それまでに稼いだお金は魔法練習用の秘薬とスクロール代であっというまに消え、銀行の金庫にはもうわずかのガラクタしか残ってない。
YoxiaはBard(吟遊詩人)でMusicianshipスキルは90を越えているが、これだけじゃ何の役にも立たないし、生産系スキルはどれも伸びていない。

低い技術力で生産するだけでも疲れるが、更にFormosaサーバはバカ重い。
私はYamatoでは大体Ping平均値が110〜150msぐらいの環境でプレイしているけど、Formosaでは実に平均500〜800ms! ワースト値が2000msを越えることも珍しくない。(2000年5月現在ではやや改善されてきたようで、平均値は200〜300ms台程度。しかしワースト値はやっぱり4桁)

はっきりいってこの数値、地球の裏側にあるアメリカ西海岸サーバよりひどい。
これが単なる距離的な問題じゃないことは、台湾の留言板(BBS)で、まぎれもない台湾在住プレイヤーから
「Hokutoなら180ms程度なのに、Formosaでは平均800ms。ワーストで3000msを記録した」
「1歩進むのに5分かかった」
「lag lag lag lag lag lag ・・・・・・(以下延々とこれが続く。気持ちはわからなくもないが、これじゃ荒らし^^;)」
といった怨嗟の声が上がっていたことからもわかる。(原文中国語)

そういうわけで、せめてスキルの面だけでもストレスを軽減すべく、新たに生産キャラを作ることにした。
名前はYasco。Str45/Dex10/Int10、スキルはCarpentry50にTinkering49、Lumberjucking1である。
開始地点は、献身の徳を奉じる鍛冶屋の町Minoc。
どことなく泥臭い雰囲気の町だが、森や鉱山が近いことから生産系PCの数が多くて活気がある。

木こりスキルが低いので多少手間取るが、切り出した丸太はほとんどロスなくWooden Shieldにすることができる。
これは30gp前後で武器屋、道具屋で売れるため、不慣れであってもそこそこの稼ぎにはなる。
本当は効率の面から言えば盾より弓のほうが儲かるんだけど、大工スキルは作れるものの種類が多いのが魅力。大工道具が壊れたらTinkeringで新しく作れるし、うまくいけばPC相手に商売することもできるかも。
BowerはGMにならない限り、PCとの取引は難しい。

Minocは積雪地帯ではないが、たまに雪が降る。こんなところでカンコンカンコン木を切ってるのも侘しいし、何より退屈だが、この際仕方がない。
1万gpも貯めればよかろうと思い、我慢した。
たまにPCの姿も見かけるが、大抵は同業者、つまり木材を奪い合うライバルなので、親しげに話し合うなんてことは滅多にないのだった。

一度「請問 知道Vesper如何走(Vesperにはどう行くかわかりますか)」「我迷路了(道に迷った)」とか聞かれたことがあったけど、「月門的東方(Moongateの東)」では通じなかった。何て言えばいいんだー!
結局「i am poor to speak chinese 對不起(ごめんなさい)」と白状。
相手は「我再找找(もう一度探してみます) 3q」とどこかに行ってしまった。

この最後の「3q」、そのときはミスタイプかなにかかと思ってたんだけど、あとで考えてみればこれって「サンキュー」のことだったわけね。(笑)
ちなみに町の中でやたら見かける「881」とか「886」とかいうセリフ、あるときちょっと立ち話した人から別れ際に言われたのでどういう意味か聞いてみたら、「bye」の意味なんだそうな。
(何か漢字の当て字があったはずなんだけど、それは忘れてしまった)

あと「54刀」という言い方もよく見るけど、これは「武士刀」つまりkatanaのこと。発音が似てるんでこうなるらしい。
下はBritain銀行前で実際に聞いた会話。

「54刀的英文是什麼?」
「katana」
・・・なんとなく可笑しい。

台湾での中国語入力方法は大まかに言って、注音字母と呼ばれる発音記号を使うものと、部首を組み合わせるものの2種類があるけど、どっちを使うにしても「複数キー入力→変換」の手続きは踏まねばならず(そのへんは日本語だって同じだけどね)、しかも同音異義語が多い。
熟語変換だって出来るんだろうけど、それでも全部が漢字となると結構大変。
数字だのアルファベットだので代用するのも、そっちのほうが楽だからってことなんだろうな。


注音字母キーボード(習用排列法)。子音、母音、声調の順に入力する。
台湾では注音字母を初等教育で教えるので、誰にでも使えて便利らしいです

もっともUOでは注音字母を直接表示させることもできるから、一部変換せずに使うことも多かったりする。
今回の話よりも少し後になって気づいたんだけど、どうも軽声(ごく短く発音する音)を表記するときは母音を省略してもいいというお約束になってるっぽい。
この日記の初めのほうで疑問詞の「嗎」が日本語では出せないと書いたけれど、実はこれが軽声。キーボードでいうと上から3段目の一番左にある記号だけで表すことができる。
で、日本語コードを検索してみたところ、これによく似た「冂」という文字を発見。(読みも意味もわからんが…)
試しに代用して「可以拾冂?(拾ってもいいですか)」とか疑問文を作ってみたら見事通じてしまったのだった。
これであと「你(あなた)」がマトモに出せるようになれば十分満足なのになー。
ある人は「youでいい」と言ってくれたけど、それってつまり「ユゥはゲートだせますかァ?」みたいなニュアンスになっちゃうんじゃなかろうか。なんかヤダ。

それはそうと、Minoc-Vesper間ぐらいなら直接連れて行ってあげればよかったんだよな…。

そんなある日、Yamatoの友人からICQが入った。
なんでもこのHPを見て興味が湧き、Formosaにキャラを作ってみたのだそうだ。
ゲーム開始地点はYew。のんびりと木こりでもやるつもりだったらしいが、折からのモンスター襲撃イベントで、危なくて銀行から外に出られないという。
湧いてくるのはオークやモンバットなどのザコなのでTrinsicほど激烈ではないものの、作りたてのキャラが気軽に出歩ける状況じゃない。その点では戦闘スキルを持たないYascoだって同様だ。
とりあえずYewにいても仕方ないので、死んでもいい装備でMinocに来てもらうことにした。(ひどい話^^;)

Minoc銀行で待つことしばし。
彼女のキャラ「Soyso」がやってきた。幸い死んだ形跡もない。
「おーい」と日本語で呼びかけると、Soysoもすぐに気づいてくれた。「いたいたー」

場違いな平仮名会話に、たちまち銀行中の視線が集中した。
「日本人」「日本人?」と、見る間に取り囲まれる。
げ、まずかったかな、と思いつつ、一応「是」と返答した。「我們是日本人」(我們=私たち)

正直、こんなに注目されるとは思っていなかった。
在日シャードでも日本語以外で話している人は見かけるけれど、狩場ならともかく銀行前では外人どうしで話し合っているのぐらい放っておくのが普通だからだ。こっちにカンケーないし。
しかしここではカンケーないでは済まされないらしい。
「為什麼要來台灣(なぜ台湾に来る必要がある)」…って、どう見てもあんまり友好的な雰囲気じゃない〜。
二人とも初期服っぽい服装(実際そうなんだけど)をしているのも、見ようによっては「いつでも死ねる」という感じで怪しげだったのかも。

そういえば昨年、Europeシャードに赤ローブ隊(※)を見物しに行ったときも、やっぱり地元の人から同じような尋問を受けたことがあった。まあこれは時期が時期だから仕方がない。
Formosaで活動している日本人PKというのは聞いたことがないけれど、在日シャードで日本人に嫌な目にあわされた台湾人プレイヤーだとか、UOに限らず普段から日本人のことをあんまり好きじゃないって人とかが存在したって、そりゃーおかしくないよな。

※赤ローブ隊=1999年11月から12月頃にかけて、在日サーバ不調のせいで
まともにプレイできなくなった日本人たちが各国シャードで作った即席PK集団

適当な返答ができずに黙っていると、おもむろに一人が言った。
「我想殺日本人」
シンプルな文字列だけにストレートに意味が伝わって怖い。
もちろんこの「殺」っていうのは、単なるPK行為のことなんだよね?そう信じたい…。
Soysoは中国語がわからないが、さすがに字面にびっくりしたらしく「何かまずいことになってるの?」と聞いてきた。
「日本人殺したいって」と通訳(っていうかそのまんま)してから「為什麼(なんのために)?」と一応つっこんでみた。
本当は「なんでだよぉ〜」ってニュアンスで言いたかったんだけど、売られたケンカを買ってるようにも見えたかもしれない。
どうにか通行人の一人がとりなしてくれてその場はおさまったものの、ミノ銀周辺一帯はなんとなくイヤ〜な雰囲気に包まれ、ちょっといたたまれない気持ちになってきた。とほほほほ。

するとさっき割って入ってきてくれた人、Huguesさんが、我々に「跟我」とか「Follow me」とか促してきた。
思わずSoysoと顔を見合せ、「どうしよ」「まー何されたって、なくすものなんかないけどね」「ついてってみよっか」「そーだねー」
…って、もし相手が日本語を解したら気を悪くしそうな会話ではあるナ。

連れて行かれたところは銀行のすぐ裏手。
Huguesさん立ち止まって「沒有怪人」。
このとき私は「怪人」を「モンスター」の意味にとっていたので、そりゃそんなものいないだろうと思ってたけれど、後で考えてみるとこれは「変なことを言う人がいない」の意味だったみたい。
聞くところによると、この人はゲームやドラマなどを通して日本に大いに興味を持っているのだそうで、日本人に対しても好意的。普段あんまりTVを見ない私のほうが、逆に話題についていけない。
某日本人俳優の話をしているのに、こっちで理解できず「朋友?」とか間抜けなボケをかましてSoysoに助け船を出してもらう始末。^^;

Huguesさんは更に、台湾に住んでいるのか、などと聞いてきた。
この質問、他にもかなりいろいろな人からされたんだけど、外国人は外国に住んでいると思うのが普通だろうに、なんだか変だなーと思っていたら、その後に理由らしきものが判明した。
そもそもこの時点で、本来Formosaシャードは外国に公開されていないはずだったらしい。
新シャードが出来ると一定期間外国からのアクセスを受け付けないのはよくあることなので、今年の1月になってから初めてシャード選択画面にFormosaを見つけたときは、てっきりこれで解禁になったものだと思い込んでいたのだが、建前上の公開日はまだまだ先。(公式サイトによると2月23日)
実際にはFormosaシャード設立当初からでもアクセスは可能だったらしく、多分それまで選択画面で見落としていたかシャードが落ちていたかのどちらかだったのだと思う。

(KATさん、ご指摘ありがとうございました)

さすがに「日本に住んでいる」以上に詳しいことは話さなかったものの、ヘコみかけていた気分もどうにか落ち着いてきた感じ。(^o^)
その日はもう遅かったので、翌日の日本時間午前0時、台湾時間午後11時(これは「当日」だね)にみんなで銀行で待ち合わせることにしてオヤスミナサイということになった。

落ち際に酒場でSoysoが言った。
「家建てられそうな土地がまだいっぱいあるね」
確かに。
もともとちょっと遊びに来るだけのつもりのシャードだったから特に土地を物色していたわけじゃなかったけれど、町とムーンゲートの間だけでも、Yamatoでは家が建っていたはずの地点が結構あいていたように思う。
ということは単純に考えれば木の盾1500枚分ほどでスモールハウスが買えることになるわけで、なにやら現実味を帯びてきた家購入の可能性に俄に有頂天になる私。
「家建ててみよっかー♪」
なにしろYamatoで一年以上プレイしていながら、未だに一番安い家の証書を買う程度の金額さえ貯めたことがなかったのである。

そして翌日。
約束の場所、時間に集まって、お金をどうやって稼ぐかとかいう何てことのない話(それもかみ合ってるのかどうかはイマイチ自信がない)に、辞書を開きながら必死で取り組んでみた。
SoysoはSoysoで「中国語会話入門」なる本を買い込んでいて、簡単な挨拶や返事などが出来るようになっていた。
しかし私が一度コネロスしたのと、「怪人」がまたやってきてひとしきり日本人を罵倒していったとのをきっかけに、このおしゃべりの輪もなんとなく解散し、各自お仕事モードに入ったのであった。

私はもちろん森で木こり。Soysoは釣りなどしているらしい。
しばらくして、彼女からICQのメッセージが届いた。銀行裏の革屋で、Huguesさんと待っているというのだ。
なんだかよくわからないが町へ戻って店に入ってみると、そこにいたのはSoysoひとり。
なんでも、あとから入ってきた別のPCがなぜか店のドアを塞いでSoysoを通せんぼしたあげく、Huguesさんに向かって何か話しはじめ、結局二人して店を出ていってそのまま帰ってこなかったんだとか。
何を話していたのかはわからなかったけれど、会話のなかに「殺」の文字があったので怖くなったそうだ。

なんだかえらく嫌われちゃったなーと思いつつも、まあいいさ、どうせこの先しばらくは会話する暇ないぐらい生産しまくるつもりだったしと開き直って、私はそのままMinocで働き続けた。
家建築という目標ができてからは、侘しいだの退屈だのとは全然思わなくなったのだから現金なモノ。
幸か不幸か、その後Huguesさんに会うことは一度もなかった。例の「怪人」氏のほうは何度か見かけていて、これ見よがしに日本語で挨拶したりもしてみたのだが(ガード圏内でね^^;)、彼ももうこっちにはあんまり関心がないようだった。

Soysoもまた木こり&細工&大工キャラを新たに作って順調にSkara Breaなどで仕事を続け、互いに盾相場情報交換などをしながらちまちまと貯金すること約2週間、どうにかめでたく家証書購入のはこびとなった。
Yew近辺ならスモールハウスぐらいすぐにでも建てられたのだが、ここでちょっぴり欲が出た。

(続く)

 

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